「ああ、あのあれはちょっとしたいたずらで……」
と、ほろ酔い加減の笠巻嬢がようやく口を滑らせた。
全国展開してる居酒屋の個室。呑み始めて1時間ちょい。ちなみに私は3杯目のハイボールに口をつけたところ。今宵のメンバーは私、篠崎紡、手塚正樹と先日、その婚約者になった笠巻史恵さん。
3人が暖簾をくぐりかけたところ、偶然通りかかった私が無理矢理、合流したって展開。
「それより、他に注文ない? 俺、ビールもう1杯頼むけど」
「飲みすぎだよ、お前。枝豆食えよ、まだあるんだから」
「あ。私、湯豆腐食べたい」
また話がそれた。
何なのこの話の流れ。私さっきからずっと二人の馴れ初め聞いてるのに、一向に誰にも答えてもらえない。
幼馴染ではあるものの手塚は謎の男だ。昔から三人集まれば、私が問い詰める。篠崎がなだめる。手塚は勝手気まま。っていう、混沌とした状態に陥る。だから、私はこの2人が、というより、手塚が嫌いだ。嫌いだけれど、婚約したと聞けば、ちょっと興味がある。手塚の何処が良いのか知りたい。なのに、そこに辿り着けない。
ぐいっとジョッキを傾けて、
「笠巻さん、話、続けて」
「話? なんの話でしたっけ?」
「ほら、いたずらよ。いたずらって何?」
「いたずら?」
大根おろしてんこ盛りの焼き厚揚げを小さく切り分けながら、笠巻さんはクエスチョンマーク。この女のアタマは鳥並みか。それとも単にアルコールに弱いだけか。私の作戦が失敗で、呑ませ過ぎたんだろうか。
「手塚と知り合った経緯よ。ちょっとしたいたずらだったんでしょ?」
「ああ、あれ。そんなこと、私、言いましたっけ。でも大した話じゃないんです」
「なんでも言いから聞かせてよ。小さいことでいいから」
「笠巻さん、お酒ないじゃん。追加追加、何がいい?」
「えぇっとですね……」
また話が脱線した。また一から仕切り直して聞かなきゃならない。ああ、たいしたことじゃないいたずらで、異星人の手塚と婚約することになったいきさつって何なんだろう。
私はジョッキを傾ける。
お題配布元:
エソラゴト。さま →ハロウィンで10題
http://eee.jakou.com/
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