「例えばさ、煙突に星が落っこちるでしょ」
試験勉強中、リオが突然脈略もなく言い出した。この子は昔からこういうところがある天然さんだ。
「唐突に何さ。何の例え?」
私は問題集から顔を上げて、一応話を聞く態度をみせる。じゃないと、しつこく絡まれるから先に対処しといた方が賢明って判断。
「で、落っこちた星がパンに刺さって」
「わかった。『アンパンマン』ね」
先に名前を言ってくれれば分かるのに。
それより、なぜ急にアニメの話題?
例えばって枕詞はどこにかかってるわけ? 今、勉強してるのは地理歴史のはずなのに。
「あの時、窯の中で焼かれたのが、スターゲイズパイだったらどうなったんだろう。スターゲイズパイのどこが顔になると思う?」
スター……なんだって?
パイってことはアップルパイとか、パンプキンパイの仲間だろうけど。初めて聞く名前だ。
「待って。そのスターなんちゃらパイってのは何のこと?」
「スターゲイズパイ、見たことない? 『魔女の宅急便』にも出てきたでしょ」
と、ドリンクを一口。
私の頭はハテナマーク。
「可愛らしく美味しそうにデフォルメされて”にしんとカボチャのパイ”って名前になってたけど」
リオの説明で、
「ああ、それなら記憶ある」
確かに美味しそうに焼けてた料理だった。女の子の反応が最悪で、どう見たって美味しそうじゃんと思ったことを覚えてる。未だに食べたことないけど。
「あれのオリジナルっていうのか、本物が”星を見上げるパイ”なのよ」
「星を見上げるパイ? さっきスターなんちゃらパイって言わなかった?」
「日本語訳」
「あー」
リオと話していると、自分が常識のないおばかさんのような気分になるのはなぜだろう。
リオの知識が妙な方向に走ってるだけだとわかってるのに。
「画像見せたほうが早いか」
と、リオはスマホを操作し、まがまがしい写真を表示した。
「これ」
「これは……失敗作じゃなくて?」
「こういう伝統料理」
パイ生地の上に魚の頭やしっぽがブッ刺さってるんですけど。しかも複数。
「頭、どこになると思う?」
リオはその画像を眺めながら、言う。
……何でそんなことを悩んでんだ、この娘。他にやることあるだろうに。
お題配布元:
Discoloさま →クリスマス5題
http://discolo.tuzikaze.com
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