「欲しかったのは、億万長者みたいな贅沢な生活じゃない」
と、ナガトモは言ったが、人には向き不向きがあることを彼は理解していない。
赤い色が好きと言いながら、似合うのは青色だったり。猫が好きと言いながら、猫にアレルギーがあったり。金儲けも才能だし、金を使うのも才能だ。贅沢を楽しむのも才能だし、清貧を喜びにする人もいる。人がどれだけ願って努力しても、向いていないものがあるし、出来ない人もいる。
ナガトモにとって金儲けは才能だし、贅沢は趣味だろうと私は考えている。だから、彼が愚痴るのを聞き流す。言っても彼は理解できない人種であると、私は思っているからだ。
「これ、どう思う? 新しく買ったんだ」
と見せてくれた絵は、芸術を理解しない私にとっては落書きも同じで。
「これの何がいいわけ?」
「高かったんだ」
「ふーん」
それで話は終わった。
高かったから良い絵、というのがナガトモの認識らしい。ナガトモが贅沢好きだと思うのはそう言う部分だ。
「お前は芸術が分からない口だな」
「こういう前衛的なのは全くね」
「古いタイプだな」
前衛的な芸術が新しいとは誰が言ったのだろう。芸術の表現方法にも流行り廃りはあるだろうが、古い物にも革新的なものはあるし、新しい作品に伝統技法を混ぜることもある。
私たちはなぜか気の合うから、ナガトモと友人関係を続けている。数年に一度、ますます大きく贅沢になるナガトモ邸に足を踏み入れ、ナガトモの贅沢品を見せびらかせながら酒を飲むのが最近の主な交流だが。
「こっちの工芸品は二つとない品だぞ」
廊下の中央に置かれた台の上の花瓶。ナガトモの説明を聞きながら、私はブランデーを舐める。
それは悪趣味と言ったほうがいいような、ダイヤと金で覆われた花瓶。これは実用品じゃなくて、観賞用だろう。活けられた花は、生花と見まごうばかりの造花。それらにも雫の代わりなのか、パールや宝石が付いている。
ナガトモは私が買い手であるかのように、その素晴らしさや芸術性を語る。彼の場合、営業力の高さも、金儲けの才能の一端にあるのだろう。
「次は?」
「他にお前に見せていないのは……」
ナガトモは考えている。この屋敷は来るたびに何もかも変わっていく。だから、例えカーテンの一つ、ドアの一つだって私には物珍しいのに。そう考えるとおかしくなる。
「どうした?」
「いや、楽しいなと思って」
「楽しい?」
ナガトモはおかしな顔をしたが、
「お前は変わらないな。こういう生活をしたいと思わないのか?」
「私はお前が言うところの清貧が性に合うんだから仕方あるまい」
「わからないな」
「だろうな。私にもお前の生活はよくわからないよ」
「……お前だけだよ、そう言うのは」
お題配布元:
リライトさま →組込課題・文頭
http://lonelylion.nobody.jp/
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