「朝起きたら隣に君がいて、コーヒーの香りがしていた。そういう幸せな時間を君と過ごせると思っていたのに……」
そう言うと、マリコはぐへぇと変な顔をした。
「バッカじゃないの。何、私に早起きさせてコーヒー入れろっての? 自分の方が帰宅早いし、自分の方が家出るの遅いってのによ。お前がやれよって話でしょ」
うんうんと適当に相槌うちながら、私は目の前のスイーツ盛り合わせを小さくフォークで切り取り、口に運ぶ。マリコ主催の、この「別れた男の愚痴を聞いてよ、スイーツおごるから」ってやつ。毎度、食べ終わるころには辟易しているのに、どうしてもおごりスイーツの誘惑に負けて参加してしまう自分が哀れ。
「アイツ理想高すぎるっていうか、夢みすぎでしょ。私はお前のママじゃないし、そんなに理想の女がいいなら、夢の中で彼女作れって話でしょ」
うんうんと、頷きながらサクランボを食べる。シロップ漬けのサクランボはなぜに美味しくないのだろう。じいちゃん家の庭のサクランボの樹からとって食べるのが、私のサクランボ番付で一番おいしい。
「何でもかんでも理想語ってさ、事細かにそこはああしろ、ここはこうしろって。あたしはお前のカスタム彼女じゃないっつーの。何だよ、じゃあこっちの言うとおりにお前も少しはやってみせろよって思うでしょ。だから、とりあえずそのクソ恰好ダサい恰好やめろっつったのよ。そしたらさあ、」
好きな時は何でも相手のなすがままなんだよな、基本的にこの娘。何もそこまでって周囲がドン引きするほど相手に尽くすというか、同化するくせに、ある日、何のきっかけかそれが切れちゃって、そこからは怒涛の反撃を開始して相手に逃げられる……っていう、いつもながらのパターン。失恋って人間を大きく成長させるっていうのに、この娘は成長している様子がない。
「そしたら、雑誌広げてきてさ、そこに載ってるアイドルの趣味のとこさしてさ、これしてよって」
そっか、あんたも大変だね。私が適度に挟む相槌に心なんて全くこもってないだろうが、そんなことより、目の前のスイーツが残り三分の一になってしまった。このおしゃべりはいつ終わるのだろう。ストレス軽減のために体重計は気にしないことにして、追加スイーツは可能だろうか。マリコのおごりで。
私はスイーツが写された店内ポスターを見やる。今回は最初に一番大きくて高いスイーツを頼んでしまったから、次は美味しそうなあっちを注文しようかな。なんて考えながら。
マリコの失恋おごりスイーツ、次は早ければ三カ月後だし、遅くても半年くらい。恋多き女は大変だよね。
お題配布元:
リライトさま →組込課題・文頭
http://lonelylion.nobody.jp/
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