夢みたいで夢じゃない、夢見がちな話。
として友人の口から語られた、ある日の話を今日はしようと思う。
友人の名前を借りにミユキとする。
ミユキはある朝目覚めて、唐突に思ったそうだ。
「そうだ、遺書を書こう」と。
「そうだ、京都に行こう」とか、「そうだ、今日は課題の提出日だった」なんて話は聞いたことがあるが、何故に遺書を書こうと思ったのかはミユキも分からないと首を振る。たぶん、彼女が忘れているだけで、それは夢の続きであった可能性が高い。
遺書を書くにあたって、彼女は寝起きであったにもかかわらず、ネットで調べ上げ、30分も経たないうちに見事な遺書を書き上げた。
後日、その遺書を見せてもらったが、ちゃんと通用する様式に書き上げられていた。寝ぼけていたからここまでの行動力があったのか、寝ぼけていないミユキならもっとすごいことができたのかもしれない。
遺書を書き上げたみゆきは当然のこととして、白いワンピースに着替え、海に向かうべく家を出た。
ちなみに、ミユキがワンピースなんて乙女なアイテムを着ているところを私は見たことがない。ではなぜミユキがワンピースを持っていたのかというと、その数日前、あるショップの開店福袋に入っていたアイテムだったらしい。私も同じ福袋を買ったが、私が買った方にはヒョウ柄のビスチェと迷彩柄のが入っていたから、偏りがあったのだと思う。
電車に乗り、海に向かっている途中、ミユキは朝ご飯を食べていないことに気づいた。たぶん、この辺でようやく目が覚めたんだと思う。
海についたのは昼くらいだった。ミユキの家から海まで電車でそんなにかからないから、起きた時間は結構遅かったみたい。
近くのコンビニで食料品を調達し、彼女は海辺を歩いた。白いワンピースの女性が一人で波打ち際を歩いている光景って考えると絵になるけれど、実際は堤防の上。空腹でふらふらしていたというから、はた目から見たら自殺願望のある人間が岬の突端に向かって歩いているように見えただろう。
堤防の先にきたミユキはそこでようやく目が覚めたらしい。自分が何をしていたのか、思い出そうと、バッグから遺書を取り出した。それを改めて読み直す。ミユキの書いた遺書にはあくまで事務的なもので、哀惜を感じさせるようなものはない。だから、ミユキ自身、なぜこんなものを持っているのか、なぜこんなものを書いたのか不思議に思ったらしい。
「何読んでるの」
声を掛けたのは地元の人。
「遺書」
当然、ミユキはそう答える。それ以外答えようもない。
お題配布元:
リライトさま →組込課題・文頭
http://lonelylion.nobody.jp/
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