嘘だ。うそだうそだうそだ、だって、あんなの。あんなのあり得ない。
私は大地に思い切り勇者の剣を突きたてた。
幼いころから願い、切磋琢磨し、幾人もの希望者の中から選ばれ、ようやく辿り着いた勇者という地位。まさか、まさかまさかまさかの、敵対する魔王が目の前で、老衰で死ぬだなんて、誰に想像できるだろう。
仲間たちの声を振り切り、立ち向かってきた敵をなぎ倒し、私は魔王城近くの丘の上まで駆けた。
こんなの酷い。私は何のために勇者になったのだろう。しかも、死んだ魔王が、幼いころに尊敬してやまなかった祖母だっただなんて。私が勇者になるため、ここ十数年会うことはなかったけれど、どうして祖母が魔王なんだ。魔王の近くにいた魔道師はどう見ても祖父だったし、その奥に控えていた暗黒の戦士は叔父に似てたし、そう言えば、魔王城に入ってすぐに倒した邪悪な魔道師はいとこのイッちゃんに似てた。
思い出し始めたら止まらない。
そう言えば、幼いころの楽しい我が家として懐かしく思い出す記憶の片隅には暗黒アイテムの数々があった。
ペットのジローと呼んでいた大きな獣は、このところ経験値アップで狩りまくっているダークビーストによく似ていたし、ばあちゃん達と会うのは基本、村の外。近い場所でも薄暗い洞窟の中だった。あれは聖なる場所に立ち入れなかったからじゃないだろうか。
いとこのイッちゃんは小さいころから頭が良くて、妙な呪文を知っていたけれど、勇者を頭からバカにして腹の立つヤツだった。
「ねえ、勇者」
追いついてきた仲間たちが恐る恐ると言った様子で、声を掛けてきた。
「どうしたの?」
どうやら仲間たちは私と魔王たちとの関係には気づいていないらしい。そこは良かったとひとまず胸をなでおろすべきところだろうか。私の頭は混乱したままで、どう返答していいのか言葉が思いつかない。
「勇者、向こうが言うにはね、新しい魔王がいるから相手してくれるって」
「……新しい魔王?」
何だか嫌な予感がする。
昨日、魔王城に潜入する前、母から受け取った手紙を懐から取り出す。こんな場所だというのに、魔法をかけられた伝書鳩で届けられた手紙。読むのは魔王を倒してからで良いと、お守りがわりに封も切らずに懐に入れていた。
取り出して目を通す。内容は短いものだった。
『お婆ちゃんのお加減がよくないそうです。もし、お婆ちゃんに万が一のことがあったら、順番的に次の魔王は母がなることになっているので、よろしくね。お母さんより』
がっくりと肩を落とす。
嘘だ。うそだうそだうそだ、だって、こんなの。こんなのあり得ない。
「ねえ勇者、どうしたの?」
いきなり頭を大地に打ち付け始めた私に、心配げな声を上げる仲間たち。
いったい誰にどうすればいいんだ? 果たして、私にとって世界の敵はどっちだ?
お題配布元:
リライトさま →組込課題・文頭
http://lonelylion.nobody.jp/
PR