猫のような男と暮らしている。
と、私は周囲に言い広めているが、それは周囲へのリア充アピールに他ならない。
ミチタカは猫である。正真正銘、真っ黒なオス猫。しかも、本当は一緒に暮らしてさえいない。いわゆる通い猫という奴で、数軒先のササキさんちでクロスケ、ヨネザワさんちでジジ、女子高性からはヤマトなどと呼ばれていることを私は知っている。
私がミチタカという名前にしたのは、彼に初めて出会ったときにちょうど見ていたドラマの俳優さんの役名だ。ミチタカというキャラクターは、そのドラマの中でいつも黒ずくめの恰好をしていて、家を持たず、定職にもつかずふらふらしていた。それを不満げに思っているのは彼女だと思い込んでいる女だけ。
どんなに彼女に猛アピールされようとも、ミチタカは考えを変えず生きていた。まるで、猫のような男。私の目の前に現れた毛むくじゃらと同じじゃないか。
「ミチタカ」
私はやってきた彼に餌をやり、ブラシでグルーミングしてやる。この首輪はどこの家でつけられたものだろう。彼に似あう青いベルト。
野性的な食事を終えたミチタカにおもちゃを差し出し、彼の興味を誘う。
「今日が休みで良かった」
ナオ、とミチタカは鳴く。私は思う存分、ミチタカが遊ぶのにつき合う。
人懐こいのに、どうしてミチタカは通い猫をしているのだろう。ずっと部屋に閉じ込めてしまいたいと思うのに、私はミチタカが出かけてゆくのを止められない。
「ミチタカ、今日はうちにいてくれるんでしょ?」
遊び疲れ、まどろみ始めたミチタカに問いかける。
おっくうそうに瞼を持ちあげ、私を見上げたけれど、ミチタカはそのまま寝入ってしまった。
ミチタカが人間であったら、私はどういう立場になるんだろうと考える。近いのはきっと平安時代の通い婚だろう。他の女たちに取られぬように、私は彼の興味を引いて、引き留める。いつか通って来なくなるのではないだろうかと、不安に思いながら。
でも、ミチタカが本当に人間であったら、私はきっと別れを選択するだろう。誰かと男をシェアするなんて、どう考えてもできない。
「ミチタカが猫で良かった」
私はミチタカの安心しきった寝顔を見ながら、休日の幸福に身をゆだねる。何もないけれど、この瞬間だけしか味わえない幸福を。
お題配布元:
リライトさま →組込課題・文頭
http://lonelylion.nobody.jp/
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