今日は、僕と君だけの特別な日。
君は匂いスミレの花のように可愛らしく素敵だ。
そのピアスは夜空の星で作られたようだね。
なんて、ファミレスのテーブルの向かいに座り、キモイ台詞を吐き続けているのは、私の運命の彼氏と自称しているナカガワキヨフミ氏、38歳。彼の妻は私の後輩であり、友人でもあるモエちゃん。ちなみに私の隣に座り、今、ホットケーキを親の仇のように切り刻んでいる女だ。
彼をヤバい奴と言ってしまうのは事情を考えると可哀想だ。なぜなら彼は今、頭がおかしい。この言い方はキツイか。えぇっと、国語力のない私が説明するのもアレなんだけど、彼は先日の事故の後遺症で現在、記憶が混乱している。しばらくすれば落ち着くだろうって医者の話らしいが、独身時代である数年前と現在とを記憶が行ったり来たりしているらしい。
そして、先ほどタイミングよくその退行の瞬間が訪れたらしく、私は前方と横からものすごいプレッシャーをかけられているところだ。モエちゃんがいない時なら、むしろ喜んだかもしれないが、真横に奥さんいる状況で口説かれたって、地獄の門が開いた心境でしかない。
っていうか、ナカガワ氏って好きな人に甘い言葉を言っちゃうタイプの人だったのね。知らなった。
「これですよ、これ」
モエちゃんはどこからその低音を出せるのかってほどの低音で、
「私のことも子供のことも忘れちゃう瞬間があるんです。信じられますか」
目の前で見せられちゃ信じないなんて言えないわね。
その細切れに切り刻まれたホットケーキの残骸が可哀想。嫉妬深いのよね、この子。
「先生がそのうち落ち着くって言ってたんでしょ?」
「そのうちっていつまでですか」
「のんびりするしかないんじゃない?」
「先に言っときます」
「な、何かしら」
「私、別れる気なんてないですから」
宣戦布告されました。
大丈夫、私も、他人のものに手を出す主義はありませんから。
だから、まだ独身なんですけど。
「ナカガワさん、私に会いたくなった時は必ずモエちゃん同伴でお願いしますね」
お題配布元:
リライトさま →組込課題・文頭
http://lonelylion.nobody.jp/
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