信じた自分が馬鹿だったと、気休めを口にしてみる。
そもそも、最初から怪しいと思っていたのだ。
ユウタの言うことなんて信じる方がバカだ、と常々言っているのはミヨコさんだし、私はミヨコさんの言うことはたいてい信じることにしている。間違ってる時もあるし、適当なこともあるけれど、ミヨコさんは数少ない信用できる大人である。
ミヨコさんは私の現在の母である。つまり、父の再婚相手。ユウタはミヨコさんのかつての弟、ミヨコさんの亡くなったかつての夫の弟だ。年が離れていたから、弟というより息子に近い感覚だとミヨコさんはいう。天涯孤独のユウタを引き取ったミヨコさんとうちの父が子連れ再婚したのが数年前。私からすれば、お兄ちゃんというのがしっくりくる年齢だが、ユウタのその性格から、間違ってもお兄ちゃんと呼んだことはない。
誰もに「アレ」とか「アイツ」で通る。特異な性格と実行力を兼ね備えた、愛されキャラだ。
ユウタは年に何度も旅に出る。リュック一つの身軽で不自由な放浪生活の何が楽しいのわからないが、一番楽しいのは家に帰るときだという。だったら最初から家にいれば良いんじゃないかと、私は思う。
ある日ふいに帰ってきたユウタは、リュックの奥から厳重にタオルでくるんだそれを取り出した。開けてみれば、そこにあったのは黒光りする石。
これは隕石だ、とユウタは言った。山奥で見つけたんだ、と言う。
この光沢、普通じゃないだろと言われ見せられる。その辺にありそうだけど、と私は返す。
ユウタはガラクタを集めるのが好きだ。本人がいうには宝ものだってことだけど、誰の目から見ても、それを宝だと認識できそうな要素はない。
持ち帰ったその日から、ユウタはその石を朝晩眺め、時間があればその石に語りかける。
お前はどこから来たんだい?
何か悪いものにとり憑かれたかのように。
数日後、ユウタの旅の虫がうずいたのだろう。昼近くまで廊下で石を抱いて、寝っ転がっていたのに、リュックと共に姿を消した。放浪癖もいいが、計画性のない旅人は浮浪者と同義語ではないだろうか。
ユウタの代わりとばかり残された石。
廊下にあっては邪魔なので、移動させる。持ちあげると、予想に反して少し重い。これは普通の石ではないのだろうか……まさか。
食卓の、ユウタの席に座らせる。
まあ、ユウタ。丸くなっちゃって。お婆ちゃんは通りがかりに石を撫でる。まだ温かいわね。
そうなのだ。確かにこの石、ちょっと変わってる。
ユウタが帰るまで私たちはそれをユウタと呼んで可愛がった。
帰ってきたユウタは石には見向きもせず、新たなガラクタに夢中だ。
私はその石をもらい受けることにした。私の部屋の箪笥の上に小さな座布団を拵えて、そこに鎮座させる。見れば見るほど愛嬌のある石だ。どこで生まれたのだろう。やはり、ユウタがいうように隕石なのだろうか。だとしたら、とてもロマンチック。
私はその石を可愛がっていた。
ある日、遊びにきた友人が、本物の隕石だったら磁石がくっつくのよ、というので近づけてみた。
大小さまざまな磁石を近づけたが、ピクリとも反応しなかった。ホームセンターで大きな磁石を買ってきて、それを近づけたけれど、まったく反応しなかった。
結果。
それはただの石だった。ただの丸い石でしかなかった。
信じた私が馬鹿だったのだ。
ユウタを信じた私が馬鹿だったのだ。
お題配布元:
リライトさま →組込課題・文頭
http://lonelylion.nobody.jp/
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