『ピアスの穴に見た未来は、何色だった? 私たちは未来に対し――』
まさに詩的な表現だ。朱色のペンで『ポエム』と書き、該当箇所をに波線を引く。数行先でまた詩的文章発見。波線と共に『ポエム』の三文字を記すが、あまりに頻度が高いので、その三文字を書くのも面倒くさくなって来た。次にあったら『P』と記そう。
平井には小論文と詩の区別がつかないのか。付くわけないか、普段から世迷言を口からはいているし。
『妖精さん、お花さん』なんて台詞をはくやつがいたら、頭のねじがどっかおかしいのだろうと普通思うが、ポエマー平井の場合は別だ。平井の場合はそれが通常運転。学校という現実世界の中に平井という異空間を作り上げている。
大学入試に備えての小論文課題、平井にとっては論文というより、小説か詩の創作活動でしかない。だが、それでは点数を与えられない。赤点だと補習を受けさせなければならない。
大きく息を吸い込んで吐きだす。
頭が一番痛いのは担当教諭の私だ。なまじ頭の良い平井は文法も漢字のミスもない。課題の受け取り方も面白い。ただ、書きあがったものは論文ではない。論文口調の文章になるよう頑張ってはいるが。
ギリギリ合格点を与えるのは同級生たちに不公平だが、平井には赤点補習を受けて欲しくない。なぜなら、後日また、平井のポエムを読んで採点しなければならないのは私だからだ。それは目に見えたストレスでしかない。
5秒迷った末、採点を後回しにして、次の子の作品に手を出す。漢字間違い、ケアレスミス、同じ意味の重複文章。あらあら、学生っぽくて良いぞ。
お題配布元:
リライトさま →組込課題・文頭
http://lonelylion.nobody.jp/
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