「純粋は不快なものでしかないんだよ、わかるかい」
男はそう言って、写真を破り捨てた。
ピリピリと、肌で感じるくらい男は怒っていた。気持ちはわからないでもないが、怖い。とにかそのオーラが怖い。
男は見た目はモデルか二枚目俳優かってくらいの男前。ダンディって言葉はこの男のためにあるんじゃなかろうかってほど。声は渋くて、その上通り良く、雰囲気は上品で、知的。誰からも愛されるべき人間性だが、たまに人を従わせるオーラを放つ。
こう言う人間離れした、映画かドラマのキャラクターみたいな人が現実にいるなんて、実際目にするまで思いもしなかった。大物俳優の間にいたって、埋没したりしなさそうだ。
「君、」
呼ばれて、かしこまる。
普段の自分じゃ考えられない素直さだが、従わざるを得ない雰囲気にのまれている。
「後はよろしく頼んだ」
そう言って、男は部屋を出て行こうとする。
俺は背中をぐっしょり濡らしながら、声を絞りだす。
「待ってください。あの、後って……」
男は一瞬立ち止まり、こちらを振り返り、
「君に任せる」
歩調を緩めず部屋を出て行く。これで会見は終わり、という意味らしい。
外にいた秘書が室内に入ってくる。
「時間通りですね。さ、お帰り下さい」
「あの『君に任せる』ってどう言う意味でしょう」
自分でも馬鹿じゃないかと思いながら、秘書に尋ねる。だって、どうしたらいいのか本当に分からないんだから。
写真を処分しろって言うのか、報告を破棄しろっていうのか、なかったことにしろっていうのか、究極的に殺せっていうのか。言われてもしないけど。
「会長がそう言われたのでしたら、その通りになさいませ」
秘書の顔を穴があくまで見つめる。答えなど書かれていない。
不意に思いつく。
ああ、これが世に言う、忖度しろってことか。
どこまでやっちゃっていいのか、腕が試されるなあ。
「お帰り下さい」
「報酬は?」
「すでに支払い済みです。ご確認ください」
俺はしがない探偵事務所に舞い戻った。
数日して俺は、依頼人の失踪、謎の追加報酬
お題配布元:
リライトさま →組込課題・文頭
http://lonelylion.nobody.jp/
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