お前は誰も信じない。それが何だか、憎たらしい。腹立たしい。何年一緒にいると思ってるんだ、この馬鹿。
手のひらサイズのサボテンの鉢植えに、アルコールを少しそそいでやる。こいつは呑める口の奴だ。
俺は自室の奥の奥、小さな小部屋のなかで、誰にも聴かれちゃまずい話をサボテン相手にしながら、呑むのが最近の過ごし方だ。
ストレス高な仕事の日々。アルコールが入るとどうしても感情が抑えきれなくなる。唯一、安らげるのがサボテン相手に愚痴ることのできるこの時間。そのうち絶対、ストレスで体がおかしくなりそうだ。
そりゃ、アイツに使えている俺の職場仲間の大半。上層思考の高い奴らとか、野望を抱いている奴らはいい。ああいう職場の無茶なストレスにも打ち勝って、むしろ、かかってこいやな状態だろうから。でも、そういう意識もなく、ただ、アイツの優秀な幼馴染だからって理由で仕えている俺なんて、精神的にどういう立ち位置にいればいいのか。人目のない所で、大きため息ばかりついている。
一緒に野望を達成しよう、とアイツは言うが、はっきり言って俺は田舎で孤独に隠遁生活を送るのが夢だ。ただ、アイツには義理というか、引き受けてしまった責任というか、そういった縁があるから不本意ながらも精一杯、仕事をさせてもらっているだけだ。
口からなんとでも綺麗ごとを吐きだせる男だが、内心、誰も信用していないこと、理解しているのは俺だけだろう。
俺は誰よりもアイツの近くにいるけど、きっと誰よりも遠くにいるんじゃないだろうか。誰も気づいていないけど。
高級酒だからうまいはずなのに、まったくもってうまいと感じたことのないアルコールが喉から胃へ流れ込んでゆく。
そのうち、俺も使いものにならなくなれば、このアルコールの中に毒でも仕込まれるだろうか。俺の死さえイベントごとにして、きっとアイツは策略の道具にするんだろうな、と思えば、酔いたくても酔えない。
持つべきものは友、というけれど、友にも色々ある。俺はもっと平穏で、もっと無難な、普通の友が欲しかった。アイツみたいな悪魔じゃなくて。いい人ってのは本当に損でしかない。なのにどうして俺はいい人をやめられないんだろう。
夜が更ける。俺は狭い部屋で一人、呑みながら心を許せる唯一の友達のサボテンに語りかける。誰にも話せない愚痴を。
お題配布元:
リライトさま →組込課題・文頭
http://lonelylion.nobody.jp/
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