ミサキは可哀そうな子だ。友人である私はそう思ってならない。なぜなら、ミサキが一番苦手にしているものが約束であるからだ。約束と予定がなければ今の世の中やっていけない。
ミサキにとって約束とは強迫観念にも似た思考。ちょっとした約束であっても、緊張を通り越して死んでしまいそうな顔をしている。
リツコ先輩から断れない約束をした日からミサキは憔悴していった。一週間前。三日前。前日。カウントダウンするように、目に見えてミサキの死相が濃くなっていく。
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫……」
心配する周囲の声に、ミサキは頑張って笑顔を見せるが、どう見たってそれは地獄の門を開く罪人の顔、もしくは世界の終末を目の前にした人の顔。
「明日になったら……明日になったら……」
つぶやく声は呪詛のよう。
「ミサキ、ボイコットしてもいいんだよ」
「それはできない」
そこだけは強く言う。なんでそんなことに命をかけられるのかわからない。
当日。
死相も浮かび、ノーメイクで完璧にゾンビに扮したミサキが集合場所にいた。
「完璧ね」
リツコ先輩は何も気づいていない様子で言う。きっと気づいていないのだろう。リツコ先輩は細かい気配りができる反面、なぜか大きなことには気づかないことがある。
近所の学童施設へハロウィンのお菓子を配るボランティア。内容はいいんだけど、どうして配る側も仮装をする必要があるのかわからない。
私は簡単に魔法使いの恰好。黒いワンピースにマントがわりの黒いストール。帽子だけは買ったが、コスプレ用の安物だ。
ぞろぞろと歩いて向かう。お菓子は昨日までに小分けにして袋詰めされている。
現地で子供たちにお菓子を配る。ミサキは安堵と疲れから死にそうな顔をしている。そのお菓子、配るよりも自分で食べたほうがいいんじゃないかと思う。
ようよう終わり、私たちは学童施設を後にする。次はリツコさんちでハロウィンパーティー。ミサキはようやく蜘蛛の糸を見出したカンダタのよう。予定が終われば生き返る。
リツコさんちに到着する。通された部屋には何もない。まさか、の予感は当たった。
「材料は用意しといたから、今からみんなで作りましょう」
リツコ先輩は一人、服を着替えてやってきた。ミサキはふらふらと座り込む。あと一歩でミサキは死ぬなと思った。
お題配布元:
エソラゴト。さま →ハロウィンで10題
http://eee.jakou.com/
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