「親目線で見てみると、子どもの頃って、ろくでもない日々を過ごしていたもんだと呆れるね」
「突然何よ」
「いや、今の子ども達の姿を見てるとさ、心配だ不安だって言っても、俺の子供時代に比べりゃ大したことないなと思って」
「ああ、そう言う話」
「そう。子どもって変なこだわりっていうか、勘違いっていうかあるだろ。俺は小さいころ、動物園と近所の猫屋敷とか、公園と山の違いってわかってなかったんだ」
「わかる。私もね、今だから言えるけど材木置き場と丸太置き場の違い、わかってなかったのよ」
「それ、危なそうな話だな」
「そうよ、大人目線でみると実に危ない話なの。小さいころ、大人には材木置き場で遊ばないようにさんざん言われてたんだけど、私たちはあそこを丸太置き場って呼んでたの。だからいつもそこで遊んでた」
「おやおや。君にそんな不良少女時代があっただなんて。危ない目にあったことは?」
「フフっあるわよ。笑い事じゃないけど――丸太の仮置き場みたいな感じでさ、単に積み上げてただけだから上に乗って遊んでたら崩れるのよね。で、崩れた丸太をね、子ども達数人でまた積み上げ直すの。足元不安定なのに」
「うちの子がそんなとこで遊んでたら、二度と外に遊びに行かせないね」
「そうよね。なのに、あの頃全然危ないなんて思ってなかったのよね。私が馬鹿だったのか、子供の想像力がなかったのか」
「世界を知らなかっただけかもよ」
「そういう言い方もあるわけだ。で、猫屋敷ってのは?」
「ああ、近所に変わりもんの婆さんがいてさ。そこが猫屋敷になってたんだよ。猫に餌をやる、っていっても頭数が多いから、狭い庭先に餌を巻くんだよ。そしたらさ、猫だけじゃなくカラスとかハトとか動物があつまってくるわけさ」
「あー。動物がいっぱいいたらたしかに動物園だ」
「そう、ミニ動物園ってやつとかわんないだろ、やってること。だから、子供心にここは動物園だって思いこんでさ。近くを通りかかるたびに猫の姿が見えるんだよ。触れないのは動物園も一緒だろ」
「ふれあい広場なければね」
「そう、だから俺は毎日動物園に行ってたって認識になる」
「なるね、そりゃ」
「そしたら、ある日、隕石が落ちてきたみたいに世界が変わったんだ」
「誰かに指摘された?」
「そうだよ。あれは動物園じゃないってね。どれだけショックだったか」
「そりゃそうだろうね。で、あと一つの公園と空地のちがいってのは?」
「たまに連れていかれてた公園ってのが広くてさ、よく迷子になってたんだ」
「うん」
「だから、とにかく樹がたくさん生えてて、自分より高い草が生えてて、小さな川とかあって、人が一人通れる様な通路があれば公園ってとこだと思ってたんだよ」
「それは、自然公園ってこと?」
「そう、山を造成した感じの」
「それ、ヤバい感じの匂いしかしないわ」
「だろ。だから俺は公園に行ったらよくやってた沢登りを始めたんだよ。家の近所の川で」
「上流に向かって歩いていったわけね」
「そしたら、大騒ぎさ」
「なるわねえ」
「なるだろ。そんなこと、うちの子たちはする心配ないんだけど」
「した子はこういうふうに育ったわけで」
「育ったわけで」
「良い経験だったのかしら、悪い経験だったのかしら」
「大冒険ではあったんだけどね」
お題配布元:
エソラゴト。さま →ハロウィンで10題
http://eee.jakou.com/