忍者ブログ

30分で創作小説

誤字脱字意味不明等々あってもそのまま公開。あとで手入れしたものをサイトに載せる予定

  • 2024年11月24日

[PR]


×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

  • 2019年11月05日

09:パーティはこれから


ミサキは可哀そうな子だ。友人である私はそう思ってならない。なぜなら、ミサキが一番苦手にしているものが約束であるからだ。約束と予定がなければ今の世の中やっていけない。
 ミサキにとって約束とは強迫観念にも似た思考。ちょっとした約束であっても、緊張を通り越して死んでしまいそうな顔をしている。
 リツコ先輩から断れない約束をした日からミサキは憔悴していった。一週間前。三日前。前日。カウントダウンするように、目に見えてミサキの死相が濃くなっていく。
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫……」
 心配する周囲の声に、ミサキは頑張って笑顔を見せるが、どう見たってそれは地獄の門を開く罪人の顔、もしくは世界の終末を目の前にした人の顔。
「明日になったら……明日になったら……」
 つぶやく声は呪詛のよう。
「ミサキ、ボイコットしてもいいんだよ」
「それはできない」
 そこだけは強く言う。なんでそんなことに命をかけられるのかわからない。
 当日。
 死相も浮かび、ノーメイクで完璧にゾンビに扮したミサキが集合場所にいた。
「完璧ね」
 リツコ先輩は何も気づいていない様子で言う。きっと気づいていないのだろう。リツコ先輩は細かい気配りができる反面、なぜか大きなことには気づかないことがある。
 近所の学童施設へハロウィンのお菓子を配るボランティア。内容はいいんだけど、どうして配る側も仮装をする必要があるのかわからない。
 私は簡単に魔法使いの恰好。黒いワンピースにマントがわりの黒いストール。帽子だけは買ったが、コスプレ用の安物だ。
 ぞろぞろと歩いて向かう。お菓子は昨日までに小分けにして袋詰めされている。

 現地で子供たちにお菓子を配る。ミサキは安堵と疲れから死にそうな顔をしている。そのお菓子、配るよりも自分で食べたほうがいいんじゃないかと思う。
 ようよう終わり、私たちは学童施設を後にする。次はリツコさんちでハロウィンパーティー。ミサキはようやく蜘蛛の糸を見出したカンダタのよう。予定が終われば生き返る。
 リツコさんちに到着する。通された部屋には何もない。まさか、の予感は当たった。
「材料は用意しといたから、今からみんなで作りましょう」
 リツコ先輩は一人、服を着替えてやってきた。ミサキはふらふらと座り込む。あと一歩でミサキは死ぬなと思った。

お題配布元:エソラゴト。さま →ハロウィンで10題
http://eee.jakou.com/
PR
  • 2019年11月04日

08:不思議な夜


昼休憩。コンビニで買ってきた弁当を食べながら、同僚がふと思い出した様子で、
「そういや昨日、不思議なことがあってさ」
「なんだよ」
「ほら、ハロウィンって今月の末だろ」
 そう言われれば、そうだ。ハロウィンが一般化し始めたのはここ数年のこと。子どもの頃にはそんな単語さえ聞いたことがなかった。お菓子がもらえるなんて話、子どもが聞いて忘れるわけがない。
 黒とオレンジと紫と。魔女にお化けにドラキュラに。店先や家々に飾り付けられ出したのはいつからだろう。ハロウィンって元は西洋の収穫祭のはずだ。日本の田舎でやるならともかく、なんで都会の若者中心に盛り上がってるのか意味がわからない。
「昨日の夜、晴れてる予報だったのに薄暗かっただろ」
「昨日の夜」
 声に出して繰り返してみるが、わからない。仕事から帰ったら食事してお風呂入って、趣味に没頭する時間があれば楽しい日常だ。外に出ることなんて、お使いくらいしかない。
「俺、趣味が天体観測なんだよ」
「意外にロマンチストだな」
「いや、小さいころにサンタにもらった天体望遠鏡がきっかけでハマっちゃって」
「金のあるサンタだな」
「本当は父親が欲しかったのを俺にプレゼントの体で買ったらしんだ。かなり良いやつ。俺がいらなきゃ、仕方ないから自分で使う算段で」
「サンタは知能犯か」
「ま、それはいいんだけど。昨日、天体観測してたらさ。星がおかしいんだ」
「おかしい……?」
 僕はその言葉に反応する。まだ星空は綺麗なはずだ。先日、姉がはたきを手に、屋根裏に上っていくのを見かけている。
「なんていうか、メルヘンチックなピンクとか水色とか黄緑とか、角の丸い星型ってあるだろ」
「女の子のおもちゃに入ってるような」
「そうそう。それそれ。星がさ、そういうふうに見えるんだよ」
 俺はどこかでそれを見た覚えがある。それは台所のテーブルの上にあったシールじゃなかっただろうか。姉がハロウィンの飾りつけにと買ってきたグッズの中で使われなかったもの。
「それは……疲れてるんじゃないか」
 出てきた言葉はありふれたもので。
 同僚も頭を掻きつつ、
「今日は早めに寝るよ」

「ただいま、姉さん」
 帰宅してすぐ、屋内にいる姉を探す。
 姉はよいしょと屋根裏から降りてきた。
「おかえり。どうしたの?」
 僕は屋根裏に急ぐ。
 そこにあったのはシールを貼られた星。そして新たに飾り付けられたハロウィングッズ。
「なんで夜空に飾り付けしてんだよ」
「あら、ハロウィンよ」
「ダメだよ」
「ハロウィンはお化けのお祭りだから大丈夫よ」
 姉はにこりと笑い、。
「これに気づく人がどれほどいると思う?」

お題配布元:エソラゴト。さま →ハロウィンで10題
http://eee.jakou.com/

関連小説「星空と大掃除
  • 2019年11月03日

07:子供達の大冒険


「親目線で見てみると、子どもの頃って、ろくでもない日々を過ごしていたもんだと呆れるね」
「突然何よ」
「いや、今の子ども達の姿を見てるとさ、心配だ不安だって言っても、俺の子供時代に比べりゃ大したことないなと思って」
「ああ、そう言う話」
「そう。子どもって変なこだわりっていうか、勘違いっていうかあるだろ。俺は小さいころ、動物園と近所の猫屋敷とか、公園と山の違いってわかってなかったんだ」
「わかる。私もね、今だから言えるけど材木置き場と丸太置き場の違い、わかってなかったのよ」
「それ、危なそうな話だな」
「そうよ、大人目線でみると実に危ない話なの。小さいころ、大人には材木置き場で遊ばないようにさんざん言われてたんだけど、私たちはあそこを丸太置き場って呼んでたの。だからいつもそこで遊んでた」
「おやおや。君にそんな不良少女時代があっただなんて。危ない目にあったことは?」
「フフっあるわよ。笑い事じゃないけど――丸太の仮置き場みたいな感じでさ、単に積み上げてただけだから上に乗って遊んでたら崩れるのよね。で、崩れた丸太をね、子ども達数人でまた積み上げ直すの。足元不安定なのに」
「うちの子がそんなとこで遊んでたら、二度と外に遊びに行かせないね」
「そうよね。なのに、あの頃全然危ないなんて思ってなかったのよね。私が馬鹿だったのか、子供の想像力がなかったのか」
「世界を知らなかっただけかもよ」
「そういう言い方もあるわけだ。で、猫屋敷ってのは?」
「ああ、近所に変わりもんの婆さんがいてさ。そこが猫屋敷になってたんだよ。猫に餌をやる、っていっても頭数が多いから、狭い庭先に餌を巻くんだよ。そしたらさ、猫だけじゃなくカラスとかハトとか動物があつまってくるわけさ」
「あー。動物がいっぱいいたらたしかに動物園だ」
「そう、ミニ動物園ってやつとかわんないだろ、やってること。だから、子供心にここは動物園だって思いこんでさ。近くを通りかかるたびに猫の姿が見えるんだよ。触れないのは動物園も一緒だろ」
「ふれあい広場なければね」
「そう、だから俺は毎日動物園に行ってたって認識になる」
「なるね、そりゃ」
「そしたら、ある日、隕石が落ちてきたみたいに世界が変わったんだ」
「誰かに指摘された?」
「そうだよ。あれは動物園じゃないってね。どれだけショックだったか」
「そりゃそうだろうね。で、あと一つの公園と空地のちがいってのは?」
「たまに連れていかれてた公園ってのが広くてさ、よく迷子になってたんだ」
「うん」
「だから、とにかく樹がたくさん生えてて、自分より高い草が生えてて、小さな川とかあって、人が一人通れる様な通路があれば公園ってとこだと思ってたんだよ」
「それは、自然公園ってこと?」
「そう、山を造成した感じの」
「それ、ヤバい感じの匂いしかしないわ」
「だろ。だから俺は公園に行ったらよくやってた沢登りを始めたんだよ。家の近所の川で」
「上流に向かって歩いていったわけね」
「そしたら、大騒ぎさ」
「なるわねえ」
「なるだろ。そんなこと、うちの子たちはする心配ないんだけど」
「した子はこういうふうに育ったわけで」
「育ったわけで」
「良い経験だったのかしら、悪い経験だったのかしら」
「大冒険ではあったんだけどね」

お題配布元:エソラゴト。さま →ハロウィンで10題
http://eee.jakou.com/
  • 2019年11月02日

06:夜道で出会った魔法使い


「君、ここはどこだね?」
と、おじさんに声を掛けられたのはポチの散歩途中の路上。電柱の陰に隠れるように、そのおじさんは立っていた。見た目は普通にその辺にいそうな50歳くらいのおじさん。ただし、黒くて長いローブを着ている。お風呂上りに奥さんと喧嘩して家から追い出された、とか?
 私はとりあえず変な人だという認識で、ポチの紐を手繰り寄せ、電柱に書かれた地名を指さす。『中野町1丁目』
 おじさんはとくとくと見つめ、
「どうやら私には、こちらの文字が読めないようだ」
 残念そうに首を横に振りながら言う。完璧な日本語をしゃべり、見た目いかにも日本人な癖してどうした。
「向こうにまっすぐ歩いていって、角を右に曲がって道なりに進むと左手に交番ありますよ」
 ポチの紐をひっぱるが、ポチはなぜかおじさんの足元を嗅ぎまわりたくて仕方ないらしい。根を張ったように動こうとしない。
「交番? それは衛兵がいる場所、という意味かね?」
「衛兵?」
 頭の中に浮かんだのはイギリスの黒い大きな防止に赤いジャケットの近衛兵。
「いえ、お巡りさん、ポリスですね」
 日本人じゃないのだろうか。でも完璧に日本語しゃべってるし。私の頭の中、はハテナマークでいっぱいだ。強く紐を引き、ポチを無理矢理歩かせる。散歩の再開だ。ポチはしぶしぶといった様子で歩きだしたが、おじさんの姿が小さくなるとようやく散歩を思い出したらしい。いつも通り歩きだした。
 
 翌日。庭で洗濯物を取りこんでいると、
「ヨネムラさん」
と、声を掛けられて私は振り向いた。何かとおせっかいな向かいのおばさんである。
「今度、この人、居候することになったからよろしくね」
 この人とおばさんの腕の先にいたのは、昨日のおじさんだった。
「この人、こう見えてどっか外国の人なんですって。でも日本語ペラペラだから大丈夫よ。なんでもね、同僚のミスで飛ばされて来たんですって。でね、その同僚の人が迎えに来るまでこっちにいなきゃならないんですって」
「へえ、国際的なお仕事をされてるんですね」
 なんで昨日、ローブ着て道端にたたずんでたのか知らないけど。
「不測の事態でこんなことになったっていうから、左遷かしらね。呆然自失として取るものもとりあえず引っ越して来ちゃったみたいでね、何も持ってないのよ。左遷っていうより、体のいい厄介払いとかじゃないかしら。ヨネムラさん、魔法使いって仕事知ってる? よくわからないんだけど、何する仕事なのかしらね。まさか絵本に出てくる鍋をかき混ぜてるおばあさんじゃあるまいし」
 おばさんはよくわからない、を繰り返しながらずいぶん妙なことを言った。情報を聞きだすことにかけて、おばさんの右手に出る人はいないかもしれない。

お題配布元:エソラゴト。さま →ハロウィンで10題
http://eee.jakou.com/
  • 2019年11月01日

05:いたずらって何?


「ああ、あのあれはちょっとしたいたずらで……」
と、ほろ酔い加減の笠巻嬢がようやく口を滑らせた。
 全国展開してる居酒屋の個室。呑み始めて1時間ちょい。ちなみに私は3杯目のハイボールに口をつけたところ。今宵のメンバーは私、篠崎紡、手塚正樹と先日、その婚約者になった笠巻史恵さん。
 3人が暖簾をくぐりかけたところ、偶然通りかかった私が無理矢理、合流したって展開。
「それより、他に注文ない? 俺、ビールもう1杯頼むけど」
「飲みすぎだよ、お前。枝豆食えよ、まだあるんだから」
「あ。私、湯豆腐食べたい」
 また話がそれた。
 何なのこの話の流れ。私さっきからずっと二人の馴れ初め聞いてるのに、一向に誰にも答えてもらえない。
 幼馴染ではあるものの手塚は謎の男だ。昔から三人集まれば、私が問い詰める。篠崎がなだめる。手塚は勝手気まま。っていう、混沌とした状態に陥る。だから、私はこの2人が、というより、手塚が嫌いだ。嫌いだけれど、婚約したと聞けば、ちょっと興味がある。手塚の何処が良いのか知りたい。なのに、そこに辿り着けない。
 ぐいっとジョッキを傾けて、
「笠巻さん、話、続けて」
「話? なんの話でしたっけ?」
「ほら、いたずらよ。いたずらって何?」
「いたずら?」
 大根おろしてんこ盛りの焼き厚揚げを小さく切り分けながら、笠巻さんはクエスチョンマーク。この女のアタマは鳥並みか。それとも単にアルコールに弱いだけか。私の作戦が失敗で、呑ませ過ぎたんだろうか。
「手塚と知り合った経緯よ。ちょっとしたいたずらだったんでしょ?」
「ああ、あれ。そんなこと、私、言いましたっけ。でも大した話じゃないんです」
「なんでも言いから聞かせてよ。小さいことでいいから」
「笠巻さん、お酒ないじゃん。追加追加、何がいい?」
「えぇっとですね……」
 また話が脱線した。また一から仕切り直して聞かなきゃならない。ああ、たいしたことじゃないいたずらで、異星人の手塚と婚約することになったいきさつって何なんだろう。
 私はジョッキを傾ける。

お題配布元:エソラゴト。さま →ハロウィンで10題
http://eee.jakou.com/
  • 2019年10月31日

04:変な仮装


「お母さん決まった」
と、我が娘がにこやかな笑顔で報告にやってきた。今年のハロウィンの仮装を何にするか決めるよう、言ってあったのだ。
 親である私的には可愛らしいお姫様とか、動物の着ぐるみとか、人気のキャラクターなどに仮装して欲しいところだが、娘の性格上、そんなものに仮装させようとした日には、冷めた目をして鼻で笑い、私の口からハロウィンの言葉を聞くたび、同じ反応をかえす様になるだろう。
 だから10月に入ると本人にやりたい仮装を尋ね、母がその仮装の制作が可能かどうかを考え、調べてから返事をするというシステムになっている。ちなみに私が却下することも考え、娘にはいくつか候補を考えてもらっている。なんせ、娘は「混沌」の化身である。
「何に決めたの?」
 尋ねる私の顔にはきっと縦線が見えるはず。頼むから聞いたことのある単語が聞こえてきて欲しい、という期待。
 可愛らしい娘がまず口にあげたのは、
「アノマロカリス」
「ア……アロ、カリス?」
「違うよ、アノマロカリス」
 えぇっと。何よそれ。どこの誰? 何のキャラクター? とにかく可愛い系であって欲しい。
「それは何かな?」
 尋ねると、広げた図鑑のページを見せてくれた。奇妙な……シャコ?
「……それ、可愛い?」
 仮装はみんなのためにも可愛いのにしてとお願いしたはずなのに。
「可愛いでしょ」
と、娘は言うが、はっきり言って可愛くない。なんだよ、全長60センチって。
「もうちょっと違うの……お母さんが作りやすそうなのをお願い」
「じゃ、ブラックホール」
「……ブ、ブラックホールって、ブラックホールって……どういうのかお母さん、わかんないな」
 別の図鑑を広げて見せてくれた。そこに描かれていたのは赤い輪郭を持つ黒い穴。なにこれ。これをどうやって仮装として表現すればいいのかしら。
「絵に描いてもらっていいかな」
と、時間稼ぎ。ブラックホールについてスマホで調べる。重力だの光が脱出できあ穴だの、とらえられたブラックホールってのがまたあやふやでこれをどう表現したらいいのかわからない。しばらく部屋で絵を描いていた娘が、戻ってきた。
 一面、真っ黒に塗りつぶされたお絵かき帳。はっきりいって、精神的にヤバい人が描きそうな感じだが、これがブラックホールのイラストなのだ。
「こんな感じ」
 嬉しそうな娘。娘を喜ばせたい気持ちはあるが、はっきり言って私はどうしたらいいのか今年もわからない。
「……そう言えば、おばあちゃんがハロウィンの衣裳、送ってきてくれたのよ。今年はそれにしましょ」
 不服そうな娘だが、大好きなおばあちゃんには逆らわないから、こんなときだけ有難い。普段は孫を甘えさせ過ぎの人だから嫌なんだけど。

お題配布元:エソラゴト。さま →ハロウィンで10題
http://eee.jakou.com/
  • 2019年10月30日

03:ドラキュラと狼


同じ寮に暮らしてる、ってだけで月に一度、鍋パしたり、たこパしたり。そんな関係になって半年。今月は、ハロウィンパーティーだ。男だけで。
 一週間ほど前、主催兼会場提供をしてくれてる1階角部屋の安藤が謎の箱を持って現れた。ハロウィンパーティーと言えば仮装だろ、とのこと。箱の中には小さく折りたたまれた紙。そこに指定された仮装をそれぞれして来い、とのこと。
 人数分以上の紙。何を書かれているのか、恐ろしい。変なのだけは絶対嫌だと思いつつ、一枚引き当てる。
『ドラキュラ』
 安藤に見せる。
「定番だな。だが、だからこそ難しい」
 眼鏡をきらりと輝かせ、不敵に笑う。
 そうなのか? 普通に黒っぽいの着て、100均で仮装アイテムそろえりゃなんとかなるだろ。
「安藤は何なの?」
 尋ねれば、その場で引いてくれた。
『狼』
 シンプルに一文字。狼男ではなく、狼。ってことは着ぐるみだろうか。
「当日をお楽しみ」
 マッドサイエンティストみたいに笑いながら、参加料を徴収して去っていった。
 
 当日、いつもの時間にいつもの部屋に集まった顔ぶれ。安藤自筆の男らしい筆文字『友達も恋人もいない男たちの集い』垂れ幕に少しかぶって、『ハッピーハロウィーン』の看板。やたら可愛らしくメルヘンチックにポップな書体で書かれている。安藤は何をやらせても器用だが、そもそもこの集いの主催者である。
 集まったいつものメンバー。藤沢、大倉、小牧、米村。誰もがもう少しコスプレに気合入れろ的な低レベル。だが、一番の問題は主催者である黒エプロン姿の安藤。普段と何も変わりない。
「安藤、仮装は?」
 尋ねた声に、安藤はにやにやと笑いながら、エプロンをとった。胸のところに大きく「男は狼」と書かれたカットソー。
「……それ、仮装?」
「仮装だろ」
 思ったより受けなかったからか、
「それよりお前らの恰好はどうなんだよ、幽霊っていうよりKKKつだろ、ドラキュラってよりただの黒づくめ、フランケンは落書きしてるだけ、ミイラ男ならもう少し包帯巻いて来い」
 言いたいこと言って、勝手にドリンクを開ける。
 それぞれ席につき、ヤケクソ気味に「ハッピーハロウィーン」の声と共に料理を食べ始めた。

お題配布元:エソラゴト。さま →ハロウィンで10題
http://eee.jakou.com/
  • 2019年10月29日

02:落っことしたキャンディ


まるでヘンゼルとグレーテルだ。
 私はそう思いながら、道端に落ちていたビー玉を拾い上げる。これで7個目。ポケットに入れ、またしばらく歩く。ころころ、と今度は数個まとめて落ちていた。
 引きずられ、袋の底の穴が大きくなってきたのだろう。キラキラ輝くガラス玉は幼い子供たちにとって、宝石のようなものなのだろう。様々な色、模様、少しの違いでそれらに価値を見出し、興奮している様子は微笑ましい。
 目の前の公園に辿り着く。大人の足ならばたいした距離じゃない、幼児向けの遊具が置かれた小さな公園。けれど子供たちからすれば、そこは遊園地にも代えがたい遊び場であり冒険基地。
「ほら、帰るよ」
「チカちゃん。まだ来たばっかりだよ」
 小さいくせに減らず口はきけるんだから。
「お昼寝の時間でしょ。フウタ君、カズ君がお昼寝してくれなきゃ、ママに怒られるんだけど」
「ママいないもん」
「お仕事だもん」
 幼児は可愛い反面、小憎ったらしい。なんせあの姉の子である。
「ママに言いつけるよ」
「言わないよ、チカちゃんは」
 妙に確信めいた二人の言葉。近寄ってきた兄のフウタ君から買収の密談。
「チカちゃんに良いものあげるから、ママには内緒ね」
 幼児の内緒話はなぜにくすぐったいのだろう。
 とても大切なもののように渡された1個のビー玉。
「大人はこれ、食べるんでしょ?」
 残念。
 この子たちにはまだビー玉とキャンディの区別がつかないらしい。
 きっと、義兄さんがまた禁煙し始めたのだろう。

お題配布元:エソラゴト。さま →ハロウィンで10題
http://eee.jakou.com/
  • 2019年10月28日

01:ジャック・オ・ランタンの憂鬱


煮たり、焼いたり、炒めたり、はたまた揚げたり。思いつく限りの調理法を試してみた。ここ一週間、我が家の食卓には毎日、数品のカボチャ料理が溢れているし、冷蔵庫にはタッパー詰め、冷凍庫にも使いやすいサイズにカット済みのカボチャがひしめき合っている。
 お隣さん、ご近所さん、友人知人の類にはもれなくカボチャ料理をプレゼントしている。これ以上、私にどうしろと言うのだ。
 そんなことを思いながら、目の前のボウルに入ったカボチャを凝視する。
「またお前か」
 言いたくなる心境を察して欲しい。今日のカボチャは比較的よくできている。彫刻刀で彫られた目のつりあがり方は左右非対称ながらも、味があるし、口にも三本の歯。頬というか、首元辺りには茨っぽい細工。少々粗削りなものの、これなら充分インスタ映えってやつができてるんじゃなかろうか。
 流水ですすぎ、まな板の上でギシギシと切り刻んでいく。今日は何作ろう。この彫刻を生かすとしたら、カボチャの煮物か?
 
 私がこのカボチャ地獄に陥っているのは簡単だ。夫の母が数日おきに、数個ずつ「カボチャ、食べてね」と持ってくるのである。なんでも、思いもせず大量にカボチャがとれたんだとか。そして、配れるところに無料配布しているらしい。夫のお姉さんとこにこんなに大量のカボチャを持って行ってるとは思えないけど。
 一回目にもらった時は「ありがとうございます」と電話し、長々話し込んだ。二回目は「わざわざすいません。でも前にもらったのがまだあったんですよ」と電話した。三回目は疲れた。夫と喧嘩した。すると、料理もできない夫が言い出したのが、インスタ栄えするカボチャの細工を作るから料理しなくてもいい、とかいう世迷言だ。
 ああ、夫は馬鹿だ。そもそもジャック・オー・ランタンは日本で一般流通している緑のカボチャでは作らない。ジャック・オー・ランタンに生まれ変わったカボチャは数枚の写真を撮られると、ボウルに入れられ、結局台所にやってくる。上にふんわり新聞紙をかけられて。
 これをそのまま捨てろと言いたいのか、もったいないから調理しろと言いたいのか。夫の真意は曖昧なまま、私は毎日ジャック・オー・ランタンであったものに包丁をいれる。
 ああ、ハロウィーンって何でカボチャのお祭りなのかしらね。

お題配布元:エソラゴト。さま →ハロウィンで10題
http://eee.jakou.com/


<< | 最初 |

  • © 2019- 空色惑星 All Rights Reserved.
  • 忍者ブログ
  • [PR]